夏馬の眼

心に残る本や映画のお話しです。

2018-05-16から1日間の記事一覧

『双子の遺伝子』――ティム・スペクター

同じ塩基配列を持ったクローンであるはずの一卵性双生児が、なぜ、似ても似つかぬ人生を送るのか? 性格も違えば能力も違う、体つきも、罹る病気だって違う。これはいったいどういうわけだ? というお話である。 そこで、「エピジェネティクス」なる考え方が…

『山月記』――中島敦

隴西の李徴は博学才頴、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。いくばくもなく官を退いた後は、故山、虢略に帰臥し、人と交わりを絶って、ひたすら詩作に…

『Papa told me』――榛野なな恵

Wikipediaには、「都会で孤独に生きる人の心を繊細に描いており、この点も読者の共感を呼んでいる」とずいぶん柔らかく表現されているが、「孤独に生きる人」というのは、結婚しない人であり、子供を持たない人であり、母子・父子家庭の人であり、そして――こ…

『ファスト&スロー』――ダニエル・カーネマン

行動経済学を学び始めるのに、これ以上のものはない。いま、書店にはリチャード・セイラーの本が並んでいるようだが、まずはカーネマンの本書を読まなければならない。いや、まずもなにも、おそらくこの一冊で充分である。これ以上のものは現時点では存在し…

『1973年のピンボール』――村上春樹

初期三部作の一冊という位置づけにはなっているようだけれど、これは村上さんの作品の中でもちょっと異質な物語だと、私は感じている。 そしてこれも、『愛のゆくえ』と同じく、何度も読み返してきた一冊である。気分がいいから、というのがその理由だ。 か…