夏馬の眼

心に残る本や映画のお話しです。

『だがしかし』――コトヤマ

ベストセラーコミックを取り上げるのもどうかと思うが、とはいえ、正直なところ思いがけず良かったものだから、そんなつまらないカッコつけはやめて取り上げます。

いわゆるオッサンとしては、

・駄菓子が懐かしい(子供との話題にもなる)

・ほたるさんが妙に色っぽい

・男たちが本当にバカである

この三点でなんとなく新刊が出ると読んできた。途中でやめなかったという時点で、楽しんでいたことは言うまでもない。が、先日、11巻をもって終了となったところ、なんとも言えぬ静かな感動というか、いい作品だったなあ…という感慨に包まれたのである。

終わり方がよかった。もちろんそこまでの持って行き方がよかったから、終わり方がいいと思えるわけだ。ラブロマンスをテーマにしているわけではなく、少年の成長をテーマにしているわけではなく、そこはあくまでも駄菓子なのであるが、結果的に、ここに描かれてきたロマンスも成長物語も、薄味であるがゆえに沁みるのだ。

コミックというのは他人に薦めるのがたいへん難しいジャンルであると思う。キャラクター、ストーリー、セリフ、コマ割り、そして画のタッチなど、好き嫌いを左右する要素が非常に多い。が、同時に、アニメよりも安価になんでも出来るのも、やはりコミックの良さであろう。だからいま、日本の多くの才能がコミックに集まっている。

従って、『だがしかし』を強く誰かにお勧めすることはしないけれど、ひとまず第1巻は手に取るべきであろう。そこでもし「いいなあ」と感じたとしたら、是非とも11巻まで読まなければならない。これはランダムに読んでいい作品ではないのだ。