夏馬の眼

心に残る本や映画のお話しです。

『Papa told me』――榛野なな恵

Wikipediaには、「都会で孤独に生きる人の心を繊細に描いており、この点も読者の共感を呼んでいる」とずいぶん柔らかく表現されているが、「孤独に生きる人」というのは、結婚しない人であり、子供を持たない人であり、母子・父子家庭の人であり、そして――ここからが重要なのだが――そのことに関して周囲からとやかく言われる人々を主役に据えながらも、他方で、結婚していたり子供がいたり母子・父子家庭ではなかったりする人々を、かなり意図的に、意地悪で無神経で繊細さも美意識の欠片もない人々として描き続けている、そういう極めてネジくれた作品である。

が、そこがいい、のだ。

私自身、本作を読みはじめた頃は――なにしろ三十年も前から連載しているのだから当然だけど――結婚してないし、子供もいない人であったが、現在は結婚して子供がふたりいる人である。それでもやはり、おもしろいのである。

ただ、作者も年齢を重ねてきて尖ったところが最近やや目立たなくなってきたように感じる。毒の吐き加減に遠慮が見られる。昔はもっと、それこそれなんらかのコンプレックスの塊を投げつけるような描写をしていたのだが(特に「ご家族連れ」に対して)、ここ数年はなんだか少し優しいというか、物足りなさを感じる。

それではまったくただの「いい話」に堕ちていってしまうので、また昔のように尖った爪を研ぎ、毒を吐いてほしい。皮肉や嫌味で言っているのではない。本作の読みどころは、まさにそこにこそあると、私は本当にそう思っているのだ。