『双子の遺伝子』――ティム・スペクター
同じ塩基配列を持ったクローンであるはずの一卵性双生児が、なぜ、似ても似つかぬ人生を送るのか? 性格も違えば能力も違う、体つきも、罹る病気だって違う。これはいったいどういうわけだ?
というお話である。
そこで、「エピジェネティクス」なる考え方が登場する。すなわち、遺伝子がすべてを決めているわけではない、というのだ。そのうえ、これまで遺伝しないとされてきた産まれた後の出来事が遺伝する、とまで言うのである。
しかし、注意深く読んでみれば、この「エピジェネティクス」はいわゆる「ラマルキズム」とは違うことがわかる。少なくとも、飛ぼうとし続ければいつか人も飛べる、とは言っていない。何代にもわたって飛ぶ訓練をしてきたところで、せいぜい「運動神経のいい子」が産まれやすくなる、くらいの話である。
つまりこういうことだ。
潜在的になにができるかは遺伝子で決まっている。が、実際にそれができるかどうかは遺伝子だけで決まるものではない、と。口から火を吐く遺伝子を持っていなければ、口から火を吐くことは絶対にできない。が、口から火を吐く遺伝子を持っていたとしても、口から火を吐くことができるとは限らないのである。
なんだか当たり前のことを言っているような気がしないでもないが、本書に出てくるたくさんの双子たちの人生は、実に面白い。安い短編小説を読むくらいなら、本書を開くべきだろう。人の生とは思いがけないものだ、と感嘆するはずだ。