夏馬の眼

心に残る本や映画のお話しです。

『ACCA13区監察課』――オノ・ナツメ

オノ・ナツメというのは不思議な作家だ。デビュー以来、体温が変わったことがない。作品と作品の間でもそうだし、作品の中でもそうだ。常に平熱。オノ・ナツメの体温。

本作は架空の連合王国における「監察課」という役職の物語。主人公のオータスと、その妹、友人、上司や同僚との何気ない日常。王国の中枢と自治区との思惑が静かに交錯して行く中で明かされる、オータスの出生の秘密。

しかしこれはサスペンスでもなければバイオレンスでもない。描かれているのは、ある種の「品格」である。そう、オノ・ナツメにあるのは、その「品格」に対する敬意なのだろう。あるいは、そのような「品格」を失ってしまった(そもそも獲得することができなかった)我々に対する眼差しだ。

決して皮肉屋ではない。厭世的ではあるが、自棄的ではない。見た目と違ってロマンチストでもない。極めて現実的に、実際的に、この「品格」とでもいうべきものの在り様を、執拗に描き続けている作家である。

それが鼻につくという読者もいるだろう。しかし当然そうなのだ。この「品格」の別名は「スノビズム」なのである。スノッブであることを自任し、自嘲しながらも、中毒のように埋もれて行くのが、スノビズムというものだ。

実際、オノ・ナツメのファンは、オノ・ナツメのファンが増えることを望んでいない。オノ・ナツメのファンは、オノ・ナツメのファンを自任する者と出会うと、オノ・ナツメなんて知らないと嘯く。それこそが求められる「品格」である。

私も決してオノ・ナツメのファンなどではない。